東京高等裁判所 平成11年(ネ)2556号・平12年(ネ)2180号 判決
主文
一 控訴人(附帯被控訴人)の控訴及び被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴に基づき、原判決主文三項を次のとおり変更する。
控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)が、原判決添付別紙物件目録一記載の建物の一階部分において、原判決添付別紙図面記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分に耐火構造の隔壁を設置することを妨害してはならない。
二 被控訴人(附帯控訴人)の当審における主位的請求を棄却する。
三 控訴人(附帯被控訴人)のその余の控訴を棄却する。
四 訴訟費用(附帯控訴費用を含め)は、第一、二審を通じ、これを四分し、その三を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 控訴
1 控訴人(附帯被控訴人)
一 原判決中、控訴人(附帯被控訴人)の敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
2 被控訴人(附帯控訴人)
本件控訴を棄却する。
二 附帯控訴
1 被控訴人(附帯控訴人)
原判決主文三項にかかる被控訴人(附帯控訴人)の請求を次のとおり変更する。
(一) (主位的請求)
控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、原判決添付別紙物件目録一記載の建物の一階部分において、原判決添付別紙図面記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分に耐火構造の隔壁を設置せよ。
(二) (予備的請求)
主文第一項と同旨
2 控訴人(附帯被控訴人)
被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する(なお、以下のうち、一、四ないし六は、被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)が附帯控訴によって請求を拡張したことに基づく当審における主張等である。)。
一 原判決書四頁八行目の「引渡しと、」の次に、「主位的に」を加え、一〇行目の「隔壁の設置を求め」を「耐火構造の隔壁の設置を求めるとともに、予備的に被控訴人が同部分に耐火構造の隔壁を設置することの妨害禁止を求め」に改める。
二 同一二頁末行の次に、次のとおり加える。
「また、仮に隔壁があったとしても、それが除去され当該部分の独立性が失われた場合は、区分所有権は消滅すると解される。区分所有権の存否はあくまで現実の物的な独立支配性の問題であるから、一階部分についてのみ独立性を考察すべきであり、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の区分所有権は消滅したというべきである。」
三 同一四頁八行目の「区分所有権は成立せず、」の次に「又は消滅したものであって、」を加える。
四 同一五頁六行目の「認められるか。」の次に、「また、被控訴人の行う隔壁の設置に関する妨害禁止請求権が認められるか。」を加える。
五 同一六頁四行目から六行目までを次のとおり改める。
「控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)はホテルの間仕切りは建築基準法上不燃構造でなければならない旨を主張して、原判決が原状回復として木製の中等の隔壁の設置を命じたことが不当であると主張している。元々の隔壁が、控訴人によって設置されていたものであることを考えれば、このような控訴人の主張は禁反言及び信義則に違反するが、被控訴人は、控訴人の主張に沿うべく、主位的には原状回復請求権に基づいて耐火構造の隔壁の設置を、予備的に被控訴人が耐火構造の隔壁を設置することの妨害禁止を求める。」
六 同一七頁四行目から六行目までを次のとおり改める。
「また、被控訴人は耐火材による隔壁の設置を求めているが、仮に仕切壁があったとしても、これが容易に取り外せるような仮設的なベニヤ様の木材で構成されたものであったことは被控訴人自らが認めているのであるから、耐火材による隔壁の設置の請求は、原状回復の範囲を超えるものであって、被控訴人の変更後の請求は理由がない。」
第三証拠関係
証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人の請求のうち、控訴人に対し、本件建物の一階部分のうち原判決添付別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)に囲まれた部分の所有権が被控訴人にあることの確認を求める請求、同部分の引渡しを求める請求は正当として認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」一ないし三記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決書二〇頁七行目の「4」を「3(一)、(二)」に、同二八頁三行目「これは」から同頁四行目末尾までを「前記認定のような事情の下で、このような合意がされていたことは区分所有権の成立に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」にそれぞれ改める。
2 同二八頁七行目の次に、次のとおり加える。
「なお、前掲乙一の一の図面では、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)に囲まれた部分の中に存在する障害者用便所及び従業員便所(以下「便所部分」という。)については、共用部分であることを表す黄色の表示がされているので、この部分は共用部分とされていたのではないかとの疑いを生じさせないではない。しかし、乙一の一については被控訴人代表者の供述に照らしこれが被控訴人に交付されていたかは明らかではない上、控訴人の依頼によって作成されたものと認められる建物登記申請の添付図面である甲一の一では、便所部分も含め別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)に囲まれた部分全体が被控訴人の専有部分として表示されていること、本件建物建築時の控訴人と被控訴人との合意(甲三の第二条)では、被控訴人は本件建物について総床面積の三分の一以上(約六八四・五平方メートル)の専有区分所有権を取得するものとされているが、乙一の一の図面によって被控訴人の便所部分を除いた専有部分の床面積の合計を算出すると六五七・二四平方メートルとなって、大幅に右合意にかかる面積を下回ってしまうこと(なお、便所部分を被控訴人の占有面積に加えても六六三・三九平方メートルにしかならない。)、また、右合意後に締結された控訴人と被控訴人間の賃貸借契約(甲四の第八条)における一階部分の面積は四四・一七平方メートルとされているところ、甲一の一の求積によって別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)に囲まれた部分にほぼ相当する部分の面積を算出すると約四五・一六平方メートルとなり、一階部分のうち便所部分を除いて賃貸借契約を締結したものと考えることには無理があること等を併せ考えれば、便所部分も控訴人の専有部分として区分所有権の効力の及ぶ範囲に含まれているものと認めることができる。」
3 同三〇頁九行目「認められる。」の次に「また、同部分に関する控訴人の使用権限が消滅した場合には、同部分が被控訴人による独立した使用に供されることが当然の前提とされていたものと推認される。」を加える。
二 附帯控訴に基づく拡張された被控訴人の請求について
1 被控訴人は、主位的に賃貸借契約終了に基づく原状回復の請求として原判決添付別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の境界線上に耐火構造の隔壁を設置することを求めているところ、賃貸借契約の終了によって控訴人には原状回復義務が発生する(なお、契約書(甲四)では四条七項にその旨が規定されている。)から、前記認定のとおり、賃貸借契約の当初に一階部分の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)部分に仕切壁が設置されていた以上、控訴人は、契約の終了に伴って右仕切壁を設置する義務を負うのが原則である。しかし、その義務は、契約当初の原状を回復する限度にとどまるのであって、契約当初に存在していた仕切壁が容易に取り壊すことのできる鉄パイプ及びベニヤ板で構築されたものであった以上、被控訴人が求めるような耐火構造の隔壁を設置することは原伏回復の範囲を超えるといわなければならない。したがって、この点に関する被控訴人の主位的な請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
2 もっとも、原判決が認容したような木製の中等の隔壁の設置をする限度であれば、原状回復としては相当な方法であるから、附帯控訴によって請求が拡張された後でもこの限度で請求の一部を認容することができないかは検討する必要がある。
本件建物は三階以上をホテルの用途に供するものであるから、建築基準法二七条一項一号の特殊建築物として耐火建築物としなければならないものであるが(同法別表第一の(二)参照)、耐火建築物であるためには少なくともその外壁以外の主要構造部が耐火構造である必要があり(同法二条九号の二)、本件隔壁のような異種用途に供される部分を区画する壁は、同法二条五号の定義による主要構造部に該当すると解するのが相当である。また、同法三六条は、防火壁、防火区画等に関して安全上、防火上及び衛生上必要な技術的基準を政令で定めるものとし、右規定を受けた同法施行令一一二条一三項は、建築物の一部が同法二七条一項各号の一又は同条二項各号の一に該当する場合においては、その部分とその他の部分とを耐火構造若しくは同令一一五条の二の二第一項一号に掲げる技術的基準に適合する準耐火構造とした床若しくは壁又は甲種防火戸で区画しなければならないと定めている。そして、本件建物のうち、控訴人使用部分は、三階以上をホテルの用途に供するものとして同法二七条一項一号に該当するものであるから、その部分とその他の部分(被控訴人使用部分)とは、右各規定によって耐火構造若しくは準耐火構造の壁等で区画しなければならないこととなる。したがって、原判決が命じたような木製の仕切壁を設置することは、少なくとも建築基準法のこれら規定に違反することとなる。
ところで、前述のとおり、控訴人には賃貸借契約に基づき原判決添付図面表示の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)部分に仕切壁を設置すべき原状回復義務があると解すべきであり、このような原状回復義務が肯定される以上、それが一定の行政目的からの規制に抵触する場合でも、民事上の請求としてはこれを認容すべきが原則である。しかし、本件において原状回復として肯定される範囲は木製の中等の壁の設置であって、このような隔壁の設置が建築基準法に違反することは明らかであり、その違反は人の生命、財産にかかわる防火という重要な目的の実現を妨げるものである上、前記のとおりこの部分は建築基準法上主要構造部分とされ、その規模は延長八メートルにわたってホテルの用途に供する部分を他の部分と区画するものであるから、右違反は社会生活上看過し得ないものというべきであって、裁判所自らがそのような法規違反となる義務の実現を命ずることは、公の秩序に反し許されないと解するのが相当である。したがって、控訴人に対して耐火構造の隔壁の設置を求める被控訴人の主位的な請求は、法的に不能なものを求めるものとして、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却すべきものといわなければならない。
3 次に、被控訴人は、予備的に耐火構造の隔壁を設置することの妨害禁止を求めているが、もともとこのような隔壁の設置は、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)で囲まれた部分の区分所有権を明確ならしめる上に必要であるというばかりではなく、さきに認定したとおり(原判決第三の一の8)、控訴人が同部分もホテルのロビーの一部として使用を継続して被控訴人からの返還請求に応じず、同部分に関する被控訴人の区分所有権の行使に支障が生じているというのであるから、被控訴人の区分所有権の円満な行使と実現を図る上でも必要不可欠と認められ、かつ、被控訴人が隔壁を設置するについて控訴人が何らかの妨害を行う具体的なおそれのあることも認められる。したがって、被控訴人が、隔壁(耐火構造)を設置するについて控訴人の妨害禁止を求める予備的な請求は理由があるといわなければならない。
第五結論
そうすると、被控訴人の請求(附帯控訴によって拡張された部分も含む。)のうち、原判決主文一、二項で認容された部分及び附帯控訴によって追加された原判決添付別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分に隔壁を設置することの妨害禁止を求める請求はいずれも認容すべきであるが、同部分に隔壁の設置を求める請求は失当として棄却すべきである。よって、控訴及び附帯控訴に基づいて原判決主文三項を変更した上、控訴人のその余の控訴及び被控訴人の当審における主位的請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)